医療分野でのICT化が急務とされ、全国で様々な取り組みが進行しています。ここ碧南市でも2000年頃から地域医療ネットワークの構想がスタートしました。
私が医師会の副会長に就任した当時、これからの医療現場では、ICTを中心とした地域健康ネットワークが必要だという論議が活発化し、市長と医師会との間で「いつでもどこでも、誰もが質の高い利便性豊かな医療を受けられるシステム」を目指すことになったのです。他県の先進地域では、市民の希望者に医療カードを発行し、参加医療機関で診察を受ける際に情報共有ができるシステムが既に始まっており、岐阜市医師会では、ネットワークに参加した医療機関の先生方が、インフルエンザの発生状況、流行地域などの情報を各自が打ち込むことにより、市民の皆さんに提供するなど具体的な成果を上げていました。
ちょうど介護保険制度が始まった時期でもあり、介護に関する文書(主治医意見書)のやりとりなどにも、紙ベースではなく、効率的かつ患者様の利便性向上に不可欠な「ICTを活用した新たなシステムの導入」が、まさに待ったなしの気運だったのです。
そのような流れを受け、ICTを活用した医療・介護・福祉をプランニングする委員会が立ち上がりました。2003年度には碧南市のプランが策定され、「碧南市健康ネットワークプラン推進委員会」がスタートし、私が委員長を仰せつかりました。
2001年から毎年参加していた全国医療情報システム連絡協議会は、2005年度から「日本医師会医療情報システム協議会」に一本化されました。ちょうどその頃、私の診療所でもレセプトコンピュータの更新時期を迎えたため、この協議会の場で以前からよく論議されたORCAを導入し、満足できる結果を得ることができました。そこで医師会の先生方に「こんな便利なものがある」と声をかけたところ、ORCAを使う先生たちが次第に増えていきました。
こうした一連の動きが、碧南市における“医療現場のICT化”の黎明期といえるでしょう。
その後、ORCAの普及が進むなか、日本医師会からは、各種介護保険に関するソフトや最近では医師資格証など様々なツールが開発されましたが、当地区では具体的な実施には至りませんでした。我々民間の病院と、公的な市民病院や市の訪問看護ステーションなども含め、前述の協議会の場で色々とICTを利用した医療連携について協議する中、個人情報保護の法律が施行されたこともあり、民間病院が持つ健康データと市の医療機関が持つデータを繋ぐということに、非常に高いハードルができてしまったのです。これを乗り越えるのは困難であると、地域医療ネットワークの実現が危ぶまれる事態にさえなったのです。
これを一気に前進させるきっかけとなったのが、国が策定した介護保険の地域包括ケアシステムでした。県の予算で各地域に在宅医療サポートセンターが作られ、愛知県医師会では、各地域の医師会ごとで1つのセンターを担うことになったのです。そして、日本医師会の推進する地域包括ケアと多職種連携には、ICTの活用が必須となりました。
この多職種連携システムとして、愛知県医師会では「電子連絡帳」というツールを用いて行うことが推奨され、私どもの地区でもこれを利用することとなりましたが、医療連携にこれを活用するには甚だ問題があります。医療機関の連携と一口に言っても、各診療所間、病院と介護施設、二次病院や医師会の先生たちの医療機関同士など、様々なケースがあり、それらすべての連携を一つのシステムでまかなうのは困難なことが判明、再び暗礁に乗り上げました。そんな折、日本医師会の協議会の席で、介護と医療の両者を連携できるソフトを活用し成功している医師会があると聞きました。我々の地区では、すでに介護におけるICTツールとして電子連絡帳を利用することが決まっていますので、医療連携も一緒にすることはできません。そこでこれを解決する糸口が、文書交換サービス(MEDPost)との出会いでした。
紹介状を始め、医療文書は個人情報のかたまりで、情報漏洩やセキュリティに対する万全の配慮が求められます。安心・安全に医療情報を送受する必要があります。そこで、日本医師会の先生に来ていただいて講演会を開いたり、ベンダーであるオーテックスさんからアドバイスをいただいたりして、文書交換サービス(MEDPost)の検証を進めました。回線のセキュリティも、電子紹介状の送受に関する施設基準も満たしていましたが、問題は予算の確保でした。碧南市民病院が開設して20数年になりますが、開設当時医師会と市民病院が一体となって市民に向けた公益事業を行うため設立されたのが碧南市健康増進会です。これは現在公益財団法人となっていますが、この会の事業計画にICT活用の医療連携により、市民の皆さんの健康増進と医療の充実に寄与するための事業をのせていただくことができたので、財団の予算により50クライアントを繋ぐ団体契約をすることができました。
こうして、健康増進会の呼びかけに手を上げていただいた医療機関、市民病院の地域連携室、訪問介護ステーションなどに端末を置き、これらを結び医療情報の交換・共有に役立てていこうというネットワークがスタートしました。まだ、実用に向けて走り始めたところですが、注目度も高く、これから加速されていくことでしょう。
地域医療連携のためのシステムというと、高度な医療情報連携を目的とした高価な大規模システムを連想される方が多いと思いますが、まず必要なのは、医療現場で日常行われている紹介状などの文書交換を安全・確実に送り受けることができるサービスこそが、医療現場のICT化の重要な入口といえます。
先生のカルテや紹介状の字が読みにくいという悩みは解消され、また、肺や胃の検査写真に先生が所見を手書きして添付し送るといった作業も、電子化が急速に進むでしょう。現在市高齢介護課との間で介護保険に関して主治医意見書のやり取りは、医師会立臨床検査センターの集配係が委託で行っています。この人手を介して行ってきた作業も、一気に省力化できるようになります。訪問介護の複数の指示書をステーションへ送るような場合も、Faxでは個人情報が心配ですが、文書交換サービス(MEDPost)を使用すると、まとめて安全に送ることができます。碧南市では全国に先駆けて文書交換サービス(MEDPost)の団体契約による運用をはじめたところで、まだ試験的な段階ですが、徐々に成果が表れ始めていくことを期待しています。今後は、市民の皆様や医師会の先生方の率直なご感想、ご要望を取り入れ、さらに有益なシステムへと高めていきたいと考えています。
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